● BATH ROOM ●



「当麻ぁ。君で最後だからさっさとお風呂入ちゃってよ。」

年長者であり、世話好きな伸の声がする。

俺は読みかけていた本を閉じて、短く返事した。




チャプン…と水音が響く。

湯に身体を沈めてふぅと一息ついた。

心地良い温度が身体を暖めてくれる。

さっきから…違う。もうずっと前から考えてた事は1つ。

本を読んでいても、文字だけが頭を掠めるだけ。

皆と食事をしていて楽しく美味しいはずなのに、分からない位、考えている。

……同室者の礼将のことを寝ても覚めても、ずっと…考えている。

「ああ!!もう情けない!!」

思わず口に出してしまった言葉。

何故、彼にこれほど捕らわれているか分からない。

第一印象は最悪だった。

そんなサイアクなやつと同室になったけど、最初、イヤな所を見てしまうと、イイトコロしか見えなくなってしまう。

尊大で強引なところがいつの間にか・・・好きになっている。

それを『好き』と認めてしまうのが何故か悔しい。

第一、俺はうだうだと考えるのが好きじゃない。

けど、征士のコトに関してだけは、自分がこんなに女々しいのかと思うくらい、想い悩んでいる。

これが人を好きになるという感情?

よりによってあんなやつを・・・。

誰に対して恥ずかしいのか湯の中に鼻先まで浸かる。

ふと、湯の香りが鼻をくすぐる。

スッとする、ミントに近い香り。

でも、少し甘くて・・・。なんだろ?カモミール?アップルミント??

などど考えているうちに、意識が遠のいてしまった。




「のぼせるまで入って、ばっっかじゃないの?」

その声で目を開けると、風呂場じゃない部屋の天井が見える。

額には冷たいタオルがのっかっている。

「当麻。君さぁ・・本当にIQ250?」

かなり怒っている。それでも、伸は介抱してくれてる。

再び冷やしてくれたタオルを交換してくれた。

「・・あ。ナントカと紙一重っていうものね。」

「…悪かったな。紙一重で。ところで今日のお風呂、入浴剤か何か入っていたか?」

「セージ」

「は?」

「だから『セージ』っていうハーブの一種。ポプリが手に入ったから入れてみたの。・・・もしかして・・長湯していたのはそのせい?」

「ばっ!?何言ってんだよ!!」

思わず起き上がろうとして、クラッと目眩を覚える。

「まだ寝てなきゃダメだってば!ったく、この智将は!」

額を押さえ付けられ、半ば強制的に寝かされる。

「でも、そこまでムキになる所見ると、征士のコト好きなんでしょ?」

「そんなワケないだろ!!俺がなんであんな奴を・・。」

「‘仲間’として、というイミだったけど…。…ふうん。」

カマかけられた…。と思っても既に遅い。

伸は少し企んだ顔を向ける。

「…好きって言えば?」

「・・いわない。言ったら…なんか腹立つ。」

自分をここまで追い込んだ征士に対して…いや、自分に対して。

もう、伸にはバレバレなのでつい本音を漏らす。

「当麻は可愛いね。」

そう言って、伸は俺の頬にキスした。

「そういう所、好きだよ。」

突然の告白(?)に驚き、思いっきり目を見開いて彼を見た。

「伸・・・?」

まさか・な。思わず息を飲み込んだ。

周りの空気も心無しか凍り付いたように静かになる。

「・・・・なんて言ったら、どうする?」

からかったような笑みが俺を見る。

「冗談かよ!!」

伸の頭に当たるように腕をあげた。でも虚しく空を切っただけ。

「こういう風に軽〜〜〜く、言えば良いの。そのくらいの気持ちじゃなきゃ君、死んじゃうよ。」

「それが出来ないから悩んでいるんだよ。」

「まぁ、頑張りなさい。案外、楽勝かもよ。」

再び伸は俺の顔に近付き、キスをした。

今度は唇に・・・。

「当麻の成功を願っての…キスだよ。」

「…なんだよ。ソレ。」

「なんでも良いの!!ちゃんと征士に言うんだよ。僕は君の身体心配して言ってるんだからね。こういちいち倒れられると困る!!」

結局、俺の心配より、手間かかるのが嫌なだけだろ。お前は。

と言いかけたが、報復が恐いので思うだけにした。

「…努力はします…。」




数日後…

みんなと過ごした家を後にして元の暮らしに戻る。

気になる彼も当然、例外じゃない。

「征士、あのさ仙台に戻るのか?」

「ああ、いろいろあって独り暮らしする事になっている。」

「だ、だったら、俺、掃除するし御飯も作るからさ…置いてくれよ。勿論、家賃は半分出すし…。」

そう言っている間もドキドキして征士の顔が見れない。

俺の精一杯の努力。

今は『好き』って言えないけど、いつか言えるように・・・・・・。

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