「当麻ぁ。君で最後だからさっさとお風呂入ちゃってよ。」 年長者であり、世話好きな伸の声がする。 俺は読みかけていた本を閉じて、短く返事した。 チャプン…と水音が響く。 湯に身体を沈めてふぅと一息ついた。 心地良い温度が身体を暖めてくれる。 さっきから…違う。もうずっと前から考えてた事は1つ。 本を読んでいても、文字だけが頭を掠めるだけ。 皆と食事をしていて楽しく美味しいはずなのに、分からない位、考えている。 ……同室者の礼将のことを寝ても覚めても、ずっと…考えている。 「ああ!!もう情けない!!」 思わず口に出してしまった言葉。 何故、彼にこれほど捕らわれているか分からない。 第一印象は最悪だった。 そんなサイアクなやつと同室になったけど、最初、イヤな所を見てしまうと、イイトコロしか見えなくなってしまう。 尊大で強引なところがいつの間にか・・・好きになっている。 それを『好き』と認めてしまうのが何故か悔しい。 第一、俺はうだうだと考えるのが好きじゃない。 けど、征士のコトに関してだけは、自分がこんなに女々しいのかと思うくらい、想い悩んでいる。 これが人を好きになるという感情? よりによってあんなやつを・・・。 誰に対して恥ずかしいのか湯の中に鼻先まで浸かる。 ふと、湯の香りが鼻をくすぐる。 スッとする、ミントに近い香り。 でも、少し甘くて・・・。なんだろ?カモミール?アップルミント?? などど考えているうちに、意識が遠のいてしまった。 「のぼせるまで入って、ばっっかじゃないの?」 その声で目を開けると、風呂場じゃない部屋の天井が見える。 額には冷たいタオルがのっかっている。 「当麻。君さぁ・・本当にIQ250?」 かなり怒っている。それでも、伸は介抱してくれてる。 再び冷やしてくれたタオルを交換してくれた。 「・・あ。ナントカと紙一重っていうものね。」 「…悪かったな。紙一重で。ところで今日のお風呂、入浴剤か何か入っていたか?」 「セージ」 「は?」 「だから『セージ』っていうハーブの一種。ポプリが手に入ったから入れてみたの。・・・もしかして・・長湯していたのはそのせい?」 「ばっ!?何言ってんだよ!!」 思わず起き上がろうとして、クラッと目眩を覚える。 「まだ寝てなきゃダメだってば!ったく、この智将は!」 額を押さえ付けられ、半ば強制的に寝かされる。 「でも、そこまでムキになる所見ると、征士のコト好きなんでしょ?」 「そんなワケないだろ!!俺がなんであんな奴を・・。」 「‘仲間’として、というイミだったけど…。…ふうん。」 カマかけられた…。と思っても既に遅い。 伸は少し企んだ顔を向ける。 「…好きって言えば?」 「・・いわない。言ったら…なんか腹立つ。」 自分をここまで追い込んだ征士に対して…いや、自分に対して。 もう、伸にはバレバレなのでつい本音を漏らす。 「当麻は可愛いね。」 そう言って、伸は俺の頬にキスした。 「そういう所、好きだよ。」 突然の告白(?)に驚き、思いっきり目を見開いて彼を見た。 「伸・・・?」 まさか・な。思わず息を飲み込んだ。 周りの空気も心無しか凍り付いたように静かになる。 「・・・・なんて言ったら、どうする?」 からかったような笑みが俺を見る。 「冗談かよ!!」 伸の頭に当たるように腕をあげた。でも虚しく空を切っただけ。 「こういう風に軽〜〜〜く、言えば良いの。そのくらいの気持ちじゃなきゃ君、死んじゃうよ。」 「それが出来ないから悩んでいるんだよ。」 「まぁ、頑張りなさい。案外、楽勝かもよ。」 再び伸は俺の顔に近付き、キスをした。 今度は唇に・・・。 「当麻の成功を願っての…キスだよ。」 「…なんだよ。ソレ。」 「なんでも良いの!!ちゃんと征士に言うんだよ。僕は君の身体心配して言ってるんだからね。こういちいち倒れられると困る!!」 結局、俺の心配より、手間かかるのが嫌なだけだろ。お前は。 と言いかけたが、報復が恐いので思うだけにした。 「…努力はします…。」 数日後… みんなと過ごした家を後にして元の暮らしに戻る。 気になる彼も当然、例外じゃない。 「征士、あのさ仙台に戻るのか?」 「ああ、いろいろあって独り暮らしする事になっている。」 「だ、だったら、俺、掃除するし御飯も作るからさ…置いてくれよ。勿論、家賃は半分出すし…。」 そう言っている間もドキドキして征士の顔が見れない。 俺の精一杯の努力。 今は『好き』って言えないけど、いつか言えるように・・・・・・。
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