キュッと蛇口をひねって水を止める。

 「これでよし、今日も一日ごくろーさま」

 そう、誰にでもなく自分に言い聞かせて伸はエプロンをはずした。

 「しっかし、今日もよく食べたよね、あの二人」

 毎度毎度ものすごい量を消費してくれる人物が二人、ただでさえ育ち盛りの男子高校生が5人もいれば食費はかさむというのに。

 「ま、あれだけおいしそうに食べてくれるんじゃ作りがいはあるってもんだよね」

 ナスティと二人、料理を作るのは嫌じゃない。料理はもともと実家でもよく作っていたし、好きなので何の苦にもならない。それに皆だって手伝ってくれる。あの征士だって家事を叩き込んだのだから(もともと彼は自分のことは自分ですべきって考えの持ち主だ)手伝ってくれる。

 でも、時々ふと思う。

 僕はお母さんになりつつあるんじゃないだろうか・・・

 「しーん、腹減ったよ、なんかおやつない?」
 そうやって毎日キッチンに、リビングに飛び込んでくるシュウ。

 「しーん、なあなあ、今夜のメシ何?」
 そうやって毎日キッチンに入り浸る当麻。

 「しーん、ごめん、傷薬どこだっけ」
 そうやって決まり悪そうに傷を見せる遼。

 「しーん」
 「しーんー」

 毎日毎日繰り返し繰り返し。
 これって小さな子供のいるお母さんの日常じゃない?ひょっとしなくても。

 僕ってお母さん?それとも百歩譲ってお兄ちゃん?

 あ、なんだか考えたくなくなってきた。こんなんじゃ明日っからあいつらの面倒見切れないぞ。

 「ま、忘れましょう、こんなことは考えるだけ時間の無駄無駄」

 それでもなんだかやりきれないからこいつはひとつ飲んで憂さでも晴らそうか。当麻が隠してた日本酒のありかはわかってる。肴は適当に済ませましょう。

 「あら、珍しいのね、あなたがお酒なんて」

 さすが当麻、舌は確か、うまい酒だなんて一人でやっていたらナスティに見つかった。

 「ダメじゃない、未成年。とは言わないわ、何かあった?」

 さすが。伊達に何年も一緒に暮らしてきたわけじゃなく、この年上の女性は何もかもお見通しってことか。

 「まーね、ちょっとお母さんの心情ってのがよおっくわかったなと思ってさ」
 「なによう、それは私に対する嫌味ですか?毛利君?」
 「あなたがお母さんの気持ちになってたら私はどうなるの?君たちより年上で?女で?」
 「・・・ごめんなさい」
 「いいわよ、気にしてないから。だってねぇ、あの子達、ああ、征士は別だけど、可愛いじゃない?ナスティナスティって頼ってきてくれて」
 「自分で何もかも済ませちゃうのってさびしいじゃない?そりゃあれだけ人数がいれば大変だけれど、それでも自分がいなくっちゃって思わない?」

 あんまり飲みすぎちゃダメよ、そう言ってナスティは部屋へ戻る。
彼女は戦友ってとこでしょうか。何もかもお見通し、自分と同じ頼られる人。自分も頼ってる人。

 「頼もしきお姉さんに、いや、ミューズに乾杯」

 「らしくないな、伸」

 いきなり声かけないでほしい・・・それも気配を絶ってるなんて悪趣味な。

 「君も飲む?当麻の取っておき。うまいよ」
 「いだたこう」

 そういって征士はお猪口を取って向かいに座る。

 「おまえ、何もかも自分で抱え込むことはない。私たちを使え。私たちは何を言われても、おまえの言うことだったら喜んでする」

 あー、嬉しいねぇ、君からそんな言葉が出てくるとは。ちゃんと僕がなに考えてるか、君もお見通しって訳かい。

 「君はそう言ってくれつつ、先を読んでやってくれてる。助かってるよ」

 そういってあいたお猪口に注いでやる。征士も注ぎ返す。

 「そうか。ならばよい」
 「もーちょっと当麻の躾、しっかりやってくれると助けるけどね。酒をこうやって隠しておく。夜中に冷蔵庫やキャビネットを漁る。手伝いと称してのつまみ食い。監督不行き届きだよ、征士?」

 そういってやれば苦笑いをする御大。

 「・・・何でも言ったらやってくれるってさっき言ったよね」
 「ああ」
 「じゃぁさ、当麻、僕に預けない?ちゃーんと躾るから」
 「断る」
 「あれ?何でもするって言ったよね」
 「それだけは譲れんな。おまえにだけはあいつは任せられん」
 「なに?君のもの?」
 「そうだ」

 あっさりと言ってくれちゃって。それも余裕たっぷり自信たっぷりと。

 「僕にだけってのが聞き捨てならないね、どういう意味だよ」
 「おまえが思っているとおりだ。おまえには渡せないということだ」
 「あ、そう」

 そういってまた一杯。ニヤリと笑う征士と伸。

 「油断してるとさっさともらうよ?」
 「無理だな」
 「余裕たっぷりってとこかい?」

 そういってまた一杯と盃を重ねていく。

 「ま、あとで泣きを見ても知らないよ?必ずもらうからね」
 「では楽しみにしていよう」

 ・・・なんだかムカついてきた。余裕と自信の塊のこいつ。きれいに笑ってくれちゃって。
よし、明日の朝食に砂糖たっぷり入れたコーヒーを出してやろう。お茶の時間はクリームたっぷりのケーキにしてやろう、それも当麻からあいつに食べさせるように仕向けてやろう。
 まずはお返しをして。

 悩み?お母さん?なりましょう、当麻が懐くんだったらね。
 悩んでなんていられるか、こうなったら。

 

END

<お礼の言葉>
iruruさんありがとうございました〜(≧▽≦)
そう!iruruさんとこの伸ちゃんは当麻らぶなんですよね!
生粋(?)の当麻ファンとしては当麻もてもてはたまらない設定であります。
自信満々の征士もそれに負けずに虎視眈々と当麻をねらう伸もめっちゃつぼです。
しかし・・・この若さでお母さんになっていいのか毛利(笑)!

 

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