「・・・・・・すまん。」

 征士は小さく謝った。
 その声に俺は慌てる。だって征士は悪くないのだ。本当のことを言っただけなんだから。

 「やはりこれはお前がだす答えだったのだ。」

 征士はそう言うとふと目をそらしさらに呟いた。

 「私もまだ修行が足りんな。・・・愛しい人が自分で答えを出すのをを待つこともできんとは。」

 その言葉に俺は目を見開いた。

 「愛しい人って・・・・・?」

 「お前に決まってるだろう。私が愛しているのはずっと、お前だけだ。」

 俺の問いに征士は当たり前だというように答えをだす。

 「嘘・・・・・・お前、俺のこと好きなの?」

 「私が、なんとなくで他人と口づけなど交わすと思うのか、お前は?」

 征士の目に不穏な色が浮かぶ。これは征士が本気で怒る時の前触れの表情。

 その表情にさっきまでの俺なら怯えたかもしれないけど、征士の気持ちを知った今ではむしろ笑がこみ上げてくる。

 俺は首を振った。

 「思わない。・・・・・・好きだよ、征士。」

 そう言って、俺は征士にキスした。


戦いの後も何故かし続けたキスの理由。
触れるのを極力さけた危ういキスの理由。

その答えは

「俺たちが愛しあってるから」


そう、どっちかだけの想いでこんなこと長く続けられたわけないんだから。



 「あ、お前、嘘ついただろ!」

 停電はとっくに終わったけど、もう部屋の電気は消されている。
 その優しい暗闇の中で、俺達は1つのベッドの上でくつろいでいた。

 「何のことだ?」

 俺の髪を撫でていた征士が、不服げに片眉をあげる。
 こういう表情すら、すごく決まってるって思えるのは恋人の欲目だろうか。

 「だってよ、俺達がキスしてたのは、俺がお前を好きだったからじゃなくて、俺達がお互いに好きだったからだろ?」

 まったくその言葉のせいで、ちょっとの間だけど、俺は片思いの辛さを味わわなければならなかったのだ。

 「別にどちらも大して変わるまい。お前が私を好きでなければ私たちはお互いに好きなことにならないし、私たちがお互いに好きだということはお前が私を好きだということだからな。」 

 「なんか、ごまかしてない?・・・・・お前。」

 俺が睨み付けても、征士はすました顔でいる。
 なんだか、征士のすました顔ってのも新鮮だよな。いつもの無表情とはやっぱり違うんだ。
 俺は苦笑いした。

 「ふん。ま、どうせこうなっちまったんだから、関係ないか。」

 そう言って、身体を起こす。
 そろそろ自分のベッドに戻ろうと思ったのだ。

 しかし、その途端痛みが走って顔を顰める。

 「大丈夫か?」

 「・・・・・・ああ。平気。」

 征士の問いに俺は強がりを言った。
 やっぱさ、ここは俺ってば男の子だし(苦笑)?

 そして、痛い身体にむちうってベッドの側に散らばった衣服を集めながら(征士も手伝ってくれた)、俺は一つの疑問を抱いた。

 「おっかしいなー。やっぱ、お前と俺のベッドの間になんて何も障害物ないよな。・・・・・あの時、俺、何に躓いたんだろう?」

 停電の直後、自分のベッドに戻ろうとした俺は確かに何かに足をとられたのだ。

 「・・・・・・・さあな。」

 征士が妙な間の後応えた。
 俺はぴんと来た。

 「お前・・・・・・俺の足払ったな。わざと・・・・・。」

 俺は低い声をだした。
 それならば、あの暗闇の中、妙にタイミングのあっていた助けの手も納得いく。

 「しかたあるまい。貴重なチャンスだったのだ。お前を手に入れるための。」

 征士は少々罪悪感があったのか、あらぬ方向をむいている。

 「ったく、本当にこけてベッドにでも頭打ったらどうするんだよ・・・・・」

 俺はそう文句を言いながらも、なんだかそっぽをむいた征士の横顔がかわいくて、その頬に素早くキスした。

 「・・・・・・・!」

 征士が驚いたようにこちらをむいたので、俺はにんまりと笑った。

 「じゃあ、今度こそ、おやすみな。」

 そうして自分のベッドにむかって一歩踏み出した俺は、またもや、躓いた。

 「・・・・・・・・・・征士ぃ〜〜〜!」

 先刻と同じように征士の腕に収まった俺は、唸るように言った。
 そんな俺を無視して、思いっきり俺を抱きしめてくる。
 どうやら俺のおやすみのキスが嬉しかったようだが、その度に足をかけられてたらたまらない。

 「ったくよ、まさかあの停電もお前の仕業じゃないよな?」

 その俺の小さな文句は征士の唇に吸い取られた。




END/征×当話に戻る?

コメント:K-GOさんからのカウンタ100GETリクエスト。
甘い話か暗い話しか書けないと言ったら、「停電の話」とリクエストされました(大笑)。