そこに青い後ろ姿を見つけて、私は自分の判断が正しかったことを確認した。
我々は次の集合場所も決める暇もなくばらばらになってしまったのだから、誰かが皆を集めなくてはならない。 「しっかし、・・・・・・あいつはどこにいるんだ?」 当麻は窓から外を見ていた。誰かを探しているようだ。 当麻にあんな風に探されてみたい・・・・ ふと思ったそれに、私は一瞬思考が停止した。 「あいつ、年をごまかしてんじゃねーかね・・・・。」 当麻のその声で、私の思考が再び動き出す。 「あいつとは誰のことだ?」 その声に、当麻はさっと振り返ると戦う構えを作った。 「やはりここにいたか。」 「・・・・・・お前か。」 当麻は私の姿を認めて肩の力を抜く。殺気を帯びた瞳がふと和らぐ。 当麻のそういう風に和らいだ瞳を見るのは珍しい。 「どうしてここに?」 しかし、すぐにいぶかしげに視線を強くする。 「智将のお前のこと、真っ先に戦場の把握を試みると思った。」 「・・・・・・なるほどね。」 当麻は片方の眉をつり上げるようにして応えた。 当麻はよくこういう表情をする。それは随分と世慣れた雰囲気を感じさせるものだ。 当麻は私を見て僅かに目を細めた後、苦笑するように口元をゆがめる。 「じゃ、到着したばっかのとこ悪いけど、すぐに行動開始だ。」 どうやら我らが智将はすでに策を練ってあるようだ。 「わかった。」 それに頼もしさを感じつつ、私は自分が当麻の元へ駆けつけた正しさを改めて実感した。
「しばらく武装はといとけよ。武装するのは必要なときだけでいい。ずっと気をはりっぱなしじゃ、疲れちまうぞ。」 建物から外の様子を伺った当麻は、辺りに全く妖邪の気配が無いのを確認すると、そう言ってきた。 「確かにな。」 私が武装をとくのを待って、当麻は走り始めた。 「で、どうするつもりだ?」 どうやら北に向かっているようだが、私は建物に到着してすぐに当麻により出発を告げられたので、敵や遼達の正確な位置を知らなかった。これから当麻がどうするつもりなのか、見当もつかない。 「北の本隊にぶつかるのは得策じゃない。西から南の分隊の背後に回り込む。遼と伸も南西にいるから、それが最も無駄が少ない。」 その当麻の言葉から、敵は大きく分けて2隊だということがわかる。そして、どうやら北側に位置する敵は相当数いるようだ。しかも反対側にも分隊。つまりは前後を囲まれた状態ということだ。なるほど、当麻の足の速まるわけだ。 ふとそこで、今北へ向かっている事実を思う。 「では何故北に?・・・・・・秀か。」 すぐに気づく。思えば遼と伸は南西にいるらしいが、秀については触れていなかった。 当麻の瞳が満足そうに細められる。 「そういうこと。お前には秀を迎えに行ってもらいたい。あいつはかなり北の本隊に近い所にいる。俺があそこから見たときは俺達が最後に敵とぶつかった位置よりさらに北へ300mほど行った場所にいた。」 頭に最後に皆と分かれてしまった場所を思い浮かべる。 私は当麻にむかって頷く。 秀が当麻の見た場所からさらに移動しているだろうことは予想できたが、ここはできないなどと言っている場合ではない。 それに当麻は私を信じてそれを任せてくれるのだ。 自分の誇りにかけて、必ず秀をつれて、南西の当麻の指示したポイントまで連れていく。 そして、ふと当麻が「お前には」と言ったことに思い当たる。そして当麻がそのまま遼と伸を迎えに行くなら、今向かっている方向が異なる。 「当麻。お前はどうするのだ?」 「俺か?俺は東に行く。」 東へ行く。 「東?何故?」 「時間稼ぎをちょっとな・・・・」 当麻は視線をそらすように前へ向ける。 もしかしたら、現状は私が思っている以上に緊迫しているのではなかろうか。 「陽動ならば私のほうが適していると思うが?」 それは口にだしてみれば、実際その通りなのである。 「いーや、別に本当に戦うわけじゃないから。東から矢を本隊に向けて射かけてやれば、俺達が東にいるって思ってくれるだろ?」 当麻は自分達の位置を敵に見誤らせようとしているらしい。 このような我々の戦い方は敵も十分理解しているはずだ。 「なるほど。本隊の目が東にいけば、私と秀も西に行きやすくなる。それに、南側の分隊も東に向かってくるだろうからな。」 一石二鳥とはこのことだろう。 ただ、この作戦には一つだけ難しい点がある。 しかし、当麻はそれを完璧なタイミングでやり遂げるだろう。 「そういうことだ。さて、ここらで分かれるか。」 当麻の言葉に私は足を止める。当麻もまた同時に足を止めていた。 と、当麻が小さく笑った。 「どうした?」 それは敵を挑発する時の馬鹿にするような笑い方とも、我々を元気づけるための自信満々な笑みとも違っていた。 「いや、俺達って結構いいコンビかもって思ってさ。」 私の問いに当麻は肩をすくめて言った。 私はその突然の言葉に驚き、そして同時にとても嬉しく思った。 こんな些細な言葉にとても喜んでいる自分がおかしかったが、それでも私は自信満々に応えてやった。 「当然だ。」 その応えに当麻は満足したのか、私の目を見たまま小さく頷いた。 それは我々がお互いに通じ合った瞬間だったと言っていいと思う。 「なあ、おまじないしようぜ。」 しかし次に当麻が口にしたのは思いも寄らない言葉で、私は多少困惑した。 思わず疑わしい表情で見てしまっただろう私に、当麻は困ったように笑う。 「また、ちゃんと俺達が会えますようにっておまじない。」 その言葉に私の胸に暖かいものが満ちる。 「なるほど。で、どうするのだ?」 「ん。もうちょい、こっちへ。」 私の問いに当麻は手招きしながらそう応える。 近くで見た当麻は穏やかな表情をしており、自然とそれに吸い寄せられるように魅入る。 そして次の瞬間、当麻が破顔した。 今まで見たことない満面の笑み。 それに目を奪われた私に、当麻はすっと顔を近づけ口づけした。 「じゃ、死ぬなよ。」 私が何か考える間もなく、当麻は私から離れるとそう短く言った。 「お前もな!」 反射的にそう叫び返す。 「だから、また会えたらっ・・・!」 しかし振り返ることなく走り続ける当麻の背中は、あっという間に小さくなっていく。 また会えたら、もう一度しよう。 その言葉は自分の胸にしまうことにした。 「そんなことは私の誇りにかけて二度とさせん。」 次は私が当麻の唇を奪ってやろうと強く誓うと、北へ向かって走り出す。
END/征×当話に戻る? コメント:Katze鬼畜師匠の108(煩悩の数字)GETリクエスト |