「なあ、これ誰?」 冬休みを利用して、私の家に遊びに来た当麻は、アルバムを見せるようにせがんだ。 当麻の試すような発言と行動は、今に始まったことではない。この疑い深い恋人に対して、私は一つずつその疑いを晴らすようにしている。そういう積み重ねが一番当麻には効くのだ。 そして、今、その報酬は目の前で無邪気にこちらを見上げてくる。 私は、小さくため息をついた。 「すっごい綺麗な女の子だよな。今頃すんげえ美人になってんだろうなぁ。」 当麻はうっとりとした表情をしている。 「でも、お姉さんじゃないし、弥生ちゃんでもないよなぁ?従姉妹とかか?」 当麻は同じページにある姉と妹の幼い頃の写真と見比べて、首をかしげている。 「私だ。」 むすっとした声で応えた私に、当麻は一瞬止まって目をぱしぱしと瞬きした。 「・・・・・・ほんとだ。これ、お前じゃん・・・・・・・」 何度か、その写真と私を見比べた後、当麻は頷いた。 「俺、こっちのがいい。」 私の拳がそのIQ250の頭に落ちた。 「・・・で?なんでこんな格好してるわけ?」 当麻は頭を撫でながら、涙目で睨み付けてくる。 「こちらの風習では、身体の弱い子供は性別と反対の格好をさせて育てるといいと言われている。」 「え?お前って、身体弱かったの?」 心底意外そうな顔をする当麻。 「昔はな。」 今では人並み以上に丈夫な私だから、幼い頃を知らない者にとっては意外なことであろう。確かにあの頃の自分を思い出すと、今のような生活ができるとは思っていなかった。 今となっては笑い話だが、医者に二十歳までもたないとまで言われていた。 「なんか、お前って生まれた時から強かったのかと思ってた。」 ぽつりと漏らした当麻の言葉に、私は苦笑した。 「そんなことはない。子供の頃はよく、明日の朝は目が覚めないのではないかと思っていたほどだ。」 「そんなに酷かったのか?」 心配げに眉を寄せる当麻に、私は今は全く問題ないと応える。 「でも、かえって納得できるかも。」 一転、当麻は軽い調子で言う。 「あの頃、死ぬかもしれないってのに、お前だけ妙に落ち着いてたもんな。」 小さな頃から死が身近だったなら、それも納得できる。死に対する恐怖に免疫ができているから。 「お前だって、相当なものだったと思うが?」 あの頃の当麻はまさしく軍師の名に相応しく、常に冷静な判断をくだしていた。 「あー、あれは演技、演技。軍師がおろおろしてたら、かっこつかないだろ?内心は『どうしよう〜!』って心臓バクバクよ。」 それであそこまでできるなら立派なものだ。 「確かにあの頃、死ぬことは怖くなかったな。」 私はあの戦いの日々を思い出す。 「どうして?」 当麻は寝そべっていた身体を起こして、私に向き直る。どうやら、納得させるような答えを私が返すまで聞く体勢に入ったようだ。 「死を恐れようと恐れまいと、いつかは人は死ぬ。確実な事実に関して迷いや恐れを抱く必要性などあるまい?」 どんな愚か者だろうと、賢人だろうと、人間はすべからく死を迎える。 「だーかーらー、その確実な事実ってのがいつ来るかわかんないから怖いんだろ?」 当麻は肩をすくめた。 「それは死が来るのをただ待っている人間の考え方だ。」 「は?」 私の言葉に当麻は首を傾げた。 「死に向かって自ら歩く時、死は恐れるべき対象ではない。」 当麻は沈黙して、私を見つめる。 私は少し心配になった。 そうではないのだ。 私が言いたいこと。 それをうまく言葉にできないのがもどかしい。
しかし、しばらくの沈黙の後、当麻の口からでたのは感嘆の言葉だった。 「お前って本当に光なんだな。」 当麻はそっと手を伸ばす、その指先がゆっくりと私の頬に触れる。 「お前にとっちゃ、闇だろうが、死だろうが、背をむけたり目を反らすものなんじゃなくて、面と向かって相対するものなんだ。」 その指が私の長い前髪をかき上げて、私の両目を正面から見つめる。 「光の中にお前がいたんじゃなくて、お前こそが光だったんだ。」 |