「記憶を消す………?」 僕の提案に、遼と秀は驚いたようだった。 水滸の力は水の力。 「そんなことができるのか?」 遼はじっと僕の目を見た。 「可能だよ。征士に関する記憶を当麻の記憶から消すんだ。」 「そうすりゃ、当麻は元どおりになるのか?」 秀は僕の力に期待しているようだった。 「元どおり、というわけにはいかない。たぶん、当麻の中で征士は大きな部分を占めるから……少しはひずみが残ると思う。」 そのことを認めるのは僕にとって辛いけれど、当麻のこの状態を見てまで、それを認めないわけにはいかなかった。 「でも、……それでも、このままじゃ当麻まで死んじまう!」 秀は悔しそうに拳を握った。 征士の死は、それがどんなに辛いことかを僕らに知らしめた。 「当麻は……」 遼はどこか遠くを見るような目をしていた。 「当麻は、それを望むだろうか?」 その問いは、僕が一ヶ月の間、何度も自分に問ったものだった。
「人は誰でも一人で生きているわけではないわ。」 僕らが最後に相談に行ったのは、当麻の母親の所だった。 「たとえ自分がどんなに死にたくても、それを望まない人が一人でもいる限り、人は死んではいけないと思う。」 彼女はそう言った。 「それにね、当麻君は征士君のことをすごく大切に思ってたけど、あなた達のことだって、本当に大切に思ってるんだから。」 その、あなた達を悲しませるようなことなんてしたくないはずよ。 彼女はそう言って微笑んだ。
「じゃあ、始めるよ。」 僕が最後に確認するように言ったのに、遼と秀は黙って肯いた。 僕は当麻の額におもむろに手をあてると、集中する。 それは当麻の中の征士との記憶。 僕は湧きあがる暗い感情のままに、それを押し流した。
「これは俺達3人の責任だ。」 全てが終わった後、遼は僕の目をじっと見て言った。 「そうだぞ。これは俺達皆でしたことだ。」 秀もそう言ってくれた。 「うん。……ありがとう。」 僕はそう言いつつ、それが本当ではないことを知っていた。 当麻を失うこと。 僕が当麻への特別な想いに気づいた時、すでに彼の隣りには征士がいた。 そして、征士は彼の唯一の愛を手に入れ、僕の失恋は確定した。 (僕はこんな日が来るのを待っていたのかもしれない。) どこまでも卑怯者の僕は、誰もが納得するしかない形で当麻を手に入れることを望んでいた。 だから征士の死を知った時、
そう、これは僕の罪。
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