それはちょっとした 「きっかけ」だ There is his Answer in the Darkness 午後11時。 暗い廊下にラインを落とす光に、俺は部屋に入るのを少し躊躇う。 (・・・・・・別に躊躇う理由なんてないだろ?) そう自分に言い聞かせると、ドアノブに手をかけた。 「まだ、起きてたのか?」 「ああ。」 ベッドに腰をかけた征士は、こちらに顔をあげて短く応えた。 俺はなるべくさりげなく歩み寄る。 「何読んでるんだ?」 そう言って俺が征士の手元を覗き込むのと、征士が顔をあげるのは同時だった。 「・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・」 至近距離にお互いの顔。 征士の瞳が真っ直ぐに俺を映していて、いたたまれなくなる。
征士とキスするようになったのは、あの戦いの中。 戦いの終わった今、俺達はこの行為の意味を見いだせずに戸惑っている。 ずっと回数も減って、交わす深さも浅くなって、もう触れ合わせるだけのこのキスを、どうして俺達はやめられないんだろう?
俺達の唇はすぐに離れた。 戦いの後の俺達のキスは本当に唇だけ触れ合わすもの。 いっそ滑稽なほどの努力で俺は征士の身体に触れまいとする。 征士も決して俺にそれ以上触れようとはしないから。>
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