「じゃあ、おやす・・・っ!?」 挨拶して自分のベッドへ戻ろうとした時、部屋の明かりが唐突に消えた。 ブレーカーが落ちたのか? 「ちっ・・・・・・・」 思わず舌打ちする。 (まあ、どうせあとは寝るだけだしな。) そう思うと自分のベッドがあると思われる方向へ足を踏みだした。 「うわっ・・・・・・!」 上体が揺らいで、前に倒れ込む。 「・・・・・・お、サンキュ。」 俺の右腕を力強い手が掴んでいた。 俺がその手の付け根の方へ身体を向けたとたん、思いっきり引き寄せられた。 「お、おい!?」 「動くな。」 いきなり耳元に声がして、俺は今の自分の状態に気づいた。 (せ、征士に抱きしめられてる・・・・・・???) 途端、鼓動が速まる。 「え、えと・・・・・」 思わずどもってしまった俺に、征士が耳元で軽く笑った。 「危ないから、目が慣れるまでじっとしていろ。」 征士はそう言うと、俺を抱えなおす。 「・・・・・ん。」 俺は小さく頷く。 しかし、これがいけなかったのかもしれない。 身体を完全に密着させる状態になって、俺の心臓の音はさらに大きく、速くなる。 「・・・・・・・・」 随分と沈黙が重く感じる。 これ以上、自分の鼓動だけを聞いていたらおかしくなりそうだ。 危険、危険、危険・・・・・・ 「・・・・・・当麻。」 名前を耳元で呼ばれて、わかるほど自分の身体がはねるのがわかった。 「・・・なんだよ・・・・・・」 絞り出した声は震えていて、全く自分が情けない。 「もういいだろうか?」 恥ずかしくて征士の肩に顔をうずめた俺に、征士はそう言った。 「あ、ああ。もういいぞ。」 本当はまだよく見えなかったが、これ以上この状態は辛かったので俺はそう応えた。 しかし、次に起こった事態は俺の予想に反していた。 「んん・・・・・・っ!」 いきなり口を塞がれて、俺は目を見開く。 「な・・・・・・・・んあ・・・・!!!」 抗議の声をあげようとして開いたところに、舌が入ってきて俺はパニックに陥る。 そんな俺の様子に気づいて征士が唇を離した。 「・・・・・・お前はまだ気づいていないのか?」 おそらく至近距離にある顔はおもいきり顰められているに違いない。 「き・・・気づくって・・・・?」 俺はあがった息を整えながら、尋ねる。 「私達が口づけを交わす理由だ。」 ふと左頬に暖かい手の感触を感じる。 「え・・・・・・なんとなく・・・・・前からしてたし・・・・」 「お前はなんとなくで他人と口づけを交わすのか?」 その声に怒りが滲んでいるのを感じで、俺は身をすくませる。 「お前はどこまで自分の感情に鈍感なのだ。」 しかし予想を反して、次の征士の声にはため息のようなものがまじっていた。 「なんだよ、それ・・・・・・」 俺は殴られなかったことにほっとしつつ、首をかしげた。 なんだか、その表情がとてもかわいく思えて、その自分の感想に自分で驚いた。 「こんなことを私の口から言うのは本意ではないのだが・・・・・・」 征士はそう前置きをした。 「お前は私に好意を抱いているのだ。」 俺は一瞬その意味がわからなかった。 「そりゃそうだろ?だって仲間だもん、俺ら。」 今更、こいつは何を言ってるんだろう。 征士は俺の応えに顔を顰め、そして俺の顎をとらえると強引にキスしてきた。 部屋が暗いせいか、恥ずかしさの薄らいだそれは、随分と長い間、深く交わされた。 「・・・・・・それで、お前は仲間なら誰とでもこんなことをするのか?」 唇を離して言われた言葉に俺は酸素不足のせいだけでなくつまる。 確かに闘いの最中を含めても、俺がこんなことをしたのはこいつだけだ。 「う・・・・・・それは・・・・・」 「お前は私のことを仲間としてではなく、特別な対象として好意を抱いているのだ。」 征士は断言した。
俺は怒鳴った。
そう。 こんなこと気づきたくなかったのに、この暗闇のせいで気づいてしまった。 征士に指摘されるまでもなく、暗闇の中抱きしめられて鼓動が高まった時、俺は答えを見つけてしまったのだ。ただ、その答えを言葉にするのを避けていただけで。 戦いの後も何故かし続けたキスの理由。 その答えは 「俺が征士を愛してるから」 |