「・・・・・・さてと、どうするかな。」 俺は瓦礫とかした建物の残骸の影に身を潜めると、一息ついた。 「とりあえず、敵の現状位置の確認・・・・・・ついでにあいつらのも、と。」 あいつら・・・・・・つまりは俺以外のトルーパーの4人。 はっきりいって、俺はあいつらのことをよく知らない。何せ出だしで後れてしまったから、それはある程度しかたない。(宇宙から戻ってきた時、随分探すのに手こずったと責められたけど、知るもんか。俺のせいじゃない。) まあ、わかりやすい奴らが多いから、扱いやすいといっちゃ扱いやすいけど。 「見晴らしのいいところ・・・・・・と。」 あたりを見回すと、少し離れたところにある低い建物を見つけた。 ただし、逆に周囲から狙われやすいことも確かだが。 「ま、見つかんなきゃいいんだからな。」 俺がそんなへまをするもんか。 「さぁて、行きますか?」 自分に一声かけて、俺は身を低くして走り始めた。
「北に敵の本隊、南には分隊ってとこか・・・・・ほっておくと完全に囲まれるぞ・・・・」 俺は建物の割れた窓から顔だけ覗かせて辺りを見て回った。 ちなみにあいつらのうち3人の場所も確認済みだ。 「しっかし、・・・・・・あいつはどこにいるんだ?」 俺は唯一見つからない仲間の一人を思って顔を顰めた。 光輪の征士。 4人の中で一番わからないのがこいつだ。 それで俺は思わず口にした。 「あいつ、年をごまかしてんじゃねーかね・・・・。」
俺はその突然の背後からの声にとっさに振り返って臨戦態勢をとる。 「やはり、ここにいたか。」 目の前には手に大剣を携えた男。 伊達征士だ。 「・・・・・・お前か。」 俺は肩の力を抜いた。 「どうしてここに?」 「智将のお前のこと、真っ先に戦場の把握を試みると思った。」 俺の問いに光輪は当たり前のようにそう応える。 「・・・・・・なるほどね。」 俺は片眉をあげて応えた。 (これは、頼もしいっていうのかね?) 俺は唇をゆがめた。 さて、こいつに読まれるぐらいだから、ここにも長くいるのはまずいだろう。すぐに移動しよう。 「じゃ、到着したばっかのとこ悪いけど、すぐに行動開始だ。」 「わかった。」 おそらく急いでここに来ただろうに、文句一つ言わずに光輪は頷いた。
「で、どうするつもりだ?」 今、俺達はアンダーギア姿で北へ走っている。 「北の本隊にぶつかるのは得策じゃない。西から南の分隊の背後に回り込む。遼と伸も南西にいるから、それが最も無駄が少ない。」 「では何故北に?・・・・・・秀か。」 光輪は俺が応える前に自分で答えをだす。 「そういうこと。お前には秀を迎えに行ってもらいたい。あいつはかなり北の本隊に近い所にいる。俺があそこから見たときは俺達が最後に敵とぶつかった位置よりさらに北へ300mほど行った場所にいた。」 光輪は無言で頷いた。 まあ、こいつならなんとかするだろう。 ふとその思考に俺はおかしくなった。 やはり、この男は少し特別かもしれない。 「当麻。お前はどうするのだ?」 自分の思考に没頭していた俺は、名前を呼ばれて我に返る。 「俺か?俺は東に行く。」 「東?何故?」 光輪がわずかに眉を寄せる。 「時間稼ぎをちょっとな・・・・」 俺は視線を前に向けて応えた。 なんというか、こいつの顔を見てると変な気分になる。 「陽動ならば私のほうが適していると思うが?」 光輪は予想した通りの応えを返してきた。 「いーや、別に本当に戦うわけじゃないから。東から矢を本隊に向けて射かけてやれば、俺達が東にいるって思ってくれるだろ?」 「なるほど。本隊の目が東にいけば、私と秀も西に行きやすくなる。それに、南側の分隊も東に向かってくるだろうからな。」 そう。南側の分隊が東にあがってきてくれば、俺達が西側から分隊の背後に回り込むのがさらにやりやすくなる。俺は適当なところで西に向かえばいい。 「そういうことだ。さて、ここらで分かれるか。」 俺は足を止めた。光輪も寸分遅れず足を止める。 そのタイミングがあんまり合っていたので、俺は少しおかしくなった。 「どうした?」 小さく笑った俺にめざとく気づいて、光輪が声をかけてくる。 「いや、俺達って結構いいコンビかもって思ってさ。」 俺は冗談めかして肩をすくめてみせる。 光輪と・・・征士と一緒だと、俺は呼吸をするのが少し楽になる。 征士はわずかに目を見開いた後、口元に笑みを浮かべた。 「当然だ。」 その笑顔は自信に満ちあふれていて、それでいてとても綺麗だった。 その笑顔に励まされて、俺はほんの少しだけ勇気をだしてみることにした。 「なあ、おまじないしようぜ。」 俺は速まる鼓動を押し隠して、努めて軽い調子で言った。 今回の策は、征士が秀を見つけるのが遅れても、俺が逃げ遅れても成り立たない。 俺も征士も、いつ死んだっておかしくない。 「・・・・・・・?」 案の定、征士は首をかしげる。 「また、ちゃんと俺達が会えますようにっておまじない。」 「・・・・・・なるほど。で、どうするのだ?」 どうやら征士は、俺の申し出につき合ってくれるようだ。 「ん。もうちょい、こっちへ。」 俺は征士を招き寄せる。 そこで、俺は隠し玉をだしてやる。 「・・・・・・・!」 俺の隠し玉を見た瞬間、征士が固まった。 そして、その隙を逃さず俺は征士の唇にキスした。 「じゃ、死ぬなよ。」 俺はさらに固まった征士からすっと離れると、背中を向けて走り出した。 「お前もな!」 どうやら、征士は怒っていないようだった。 振り返って聞き返そうかとも思ったが、たぶん今の俺の顔ったら見られたもんじゃないからやめた。
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