「光の中にお前がいたんじゃなくて、お前こそが光だったんだ。」 俺は紫の双眸を覗き込む。 そう。この瞳は闘ってきた者の瞳。 優しい幻想の中でだけ生きてきたのでなく、厳しい現実の中で磨き上げられた瞳。 「なあ、どうやったらそんな風に思えるようになるんだ?どうしたら、終わってしまうことがわかってる命に前向きになれる?」 俺にはできない。 それを始めてしまったのは、一重にこいつの異常なまでの忍耐力と努力のせいだ。 俺は、そういう征士に出会ってしまったことを、そして自分が生まれてきてしまったことにすら、後悔したんだ。 「確かに、我々は死という事実をどうすることもできない。それは生まれると同時に定められていたゴールだからな。」 征士は俺が伸ばした指先をやんわりと握る。 「だが、そのゴールまでをどう歩くか、それは個々人の自由だ。ゴールを遅らせようと回り道して歩くのもいいだろうし、結局行き着く先は同じだからと、ゴールへ急いでたどり着くのも一つの道だ。」 言葉とともに、キスが落とされる。落とされる先は腕を徐々に昇ってきて、それとともに、俺の身体は征士の方に引き寄せられる。 「私はその道を自分の歩き方で歩むと決めた。これは私の命だから。重要なのは、誰もがたどり着けるゴールではない。一人一人がそこまで歩む道にこそある。」 俺はその迷いのない声に引き込まれる。 「しかも、唯一本当に自分のものなのは、もう歩んでしまって変えることのできない道でもなければ、これから歩むかもしれないまだ見ぬ道でもない。」 どこかで聞いたセリフだと思う。 「唯一、本当に自分のものなのは、今この瞬間の歩き方だけだ。この一瞬一瞬を、自分の本当に望むように歩むことができれば、後で悔いることなどない。なぜなら、それは自分で下した判断だから。たとえそれが悪い結果をもたらそうと、自分の下した判断ならば、その結果もまた私自身のものだ。」 あの日、どうしても愛というものを信じられないと言った俺に、 “今、ここでお前を愛していると言う私を信じろ。” こいつはそう言った。 未来のことなどわからないし、それを今どうにかできるわけではない。 永遠を誓うなんていう言葉より、それがずっと本当の、真実の言葉だって、俺には思えたんだ。 そんなことを思い出しているうちに、征士の唇はとうとう、俺の唇にたどり着いた。 「今、自分の命を自分の意志で生きることができる。死に面と向かったとき、私が気づいたことだ。」 唇を離すと、征士は微笑んだ。 思えば、俺はいつだってこいつのせいで泣きたくなる。 「死は確かにこの道の先にあるが、それはそこにあるだけだ。それが今の私の歩き方を左右することなどさせない。」 断言する言葉は、けれど口調が穏やかで、それが無理をして導き出した答えなどでなく、こいつの本心からの答えなんだと分かる。 「なんかもう、きっと、お前を変えられるものなんてないんだろうな。」 俺はため息をつくように言った。 けれど、そんな俺に征士は困ったように笑った。 “お前だけが私を変えられる。” その言外に含まれた言葉に、俺の目頭が熱くなる。 俺は、震えだした唇や表面張力の限界を見せる瞳を見られたくなくて、征士の肩に顔をうずめた。 征士は、そんな俺の背中を優しくなでながら、そっと呟いた。 「今では、お前こそが私の光だから。」 |